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広島高等裁判所 昭和26年(う)734号 判決 1952年4月11日

控訴人 被告人 東田良助 外三名 弁護人 弘田達三 豊川重助

検察官 円藤正秀関与

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

理由

被告人富田八郎、東田良助、東田若義の弁護人弘田達三の控訴趣意は、記録に編綴してある同趣意書記載のとおりであるから茲にこれを引用する。

右に対する当裁判所の判断は次のとおりである。

三、弁護人弘田達三の控訴趣意の第(四)(五)点について

刑法第一九条第一項第四号にいわゆる「前号に記載したる物の対価として得たる物」の中には、賍物の対価として得た物即ち賍物故買罪に因り取得した物を更に他に処分しその対価として得た物をも包含する趣旨であると解するを相当とするから(昭和二三年一一月一八日最高裁判所第一小法廷判決、昭和二四年一月二五日同第二小法廷判決各参照)同被告人両名が本件賍物故買に因り得た牡牛二頭を更に他と交換して得た去勢牛二頭は本来これを没収し得るものである。ところで記録によれば、右の去勢牛二頭はその後いずれも安藤寿なる者に売却したことが認められ、これを没収することができないから、更に同法第一九条の二により同被告人等からその価額を追徴し得るものというべく、この場合右の牡牛二頭を故買するに当り支払つた代金の如き不法の支出はこれを控除する理由は毫も存しないのであるから、これを差引かずして追徴を言渡したとしても何等違法の点はない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

以上説明のとおり本件各控訴はいずれもその理由がないから刑事訴訟法第三九六条により棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋元勇一郎 裁判官 尾坂貞治 裁判官 高橋英明)

控訴趣意

(四) 原判決はその主文に於て被告人東田良助及び同東田若義から各金一万六千円を追徴すると言渡し、その理由に被告人等が本件故買牡牛二頭と交換して得た対価である去勢牛二頭はこれを没収することができないので刑法第一九条の二によりその価格約三万二千円を二分し、被告人等から各その一部宛を追徴すべしと判示して居るが、刑法第一九条の第一項第三号に所謂犯罪行為に因り得たる物とは犯罪行為により直接に取得したる物を指称し、その間接に取得したる即ち犯罪行為を組成したる物或は犯罪行為より生じたるもの又は之に因り得たるものを処分して取得したる対価の如きは之を包含せざること論を俟たないところである。然るに去勢牛二頭は之を没収することが出来ないからその価格約三万二千円を二分して、と判示したのは明らかに法令の適用に誤があり判決に影響を及ぼすものと云はなければならない。

(五) 仮りに然らずとするも価格三万二千円を二分しと判示して居る点について考慮するに、牡牛は去勢牛二頭と交換したのであり、その交換した去勢牛二頭の価格が凡そ三万二千円位と推定さるるに過ぎず、然も牡牛二頭は対価二万円を支払つている事実よりするならば、仮りに去勢牛二頭の価格が凡そ三万二千円であるとしても、その依つて得た時価は実に一万二千円に過ぎないのである。従つて之を二分するならば六千円となり、これを、価格約三万二千円を二分しと判示して被告人東田良助、同東田若義から各金壱万六千円を追徴すると判決言渡を為したのは明らかに法の適用を誤つたものと信ずるのである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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